ERUTLUC 水野 慎士の「状況判断練習のすゝめ」
エルトラックの海外事業部としてアメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカを渡り歩きながらバスケットボールを学び、特に各国の選手育成について造詣の深い水野慎士指導員。
その水野慎士指導員が今回のサミットのクリニックで選んだテーマが『 状況判断 』であった。しかも対象は小学3,4年生である。低学年の選手向けのクリニックで状況判断をどのように伝えていくのか?テーマが発表されて以来とても楽しみにしていたクリニックの内容を皆さんにもお届けしたい。
――なぜクリニックの対象が低学年で、且つ“状況判断”というテーマを選ばれたのでしょうか? 「低学年を対象にしたのは、単純に他のクリニックの募集対象がほとんど小学5年生以上だったからです。より多くの子どもたちにこのジュニアバスケットボールサミットというイベントに参加して欲しいと思い、自分は3,4年生の対象のクリニックにしました。またテーマを状況判断にしたのは、自分の専門分野にしていきたいと考え現在勉強中という面もありますが、これも他のコーチの皆さんがドリブルスキル系のテーマが多かったので、せっかくなので違うものを紹介したいと思い状況判断というテーマにしました。」
――低学年の子どもたちに対して“状況判断”というテーマは少し難しいのかなと感じましたが?
「低学年、高学年、中高生というカテゴリーに関係なく、状況判断のトレーニングは全ての選手にとって非常に重要です。低学年だから判断練習はいらないのではなく、小学3,4年生(9歳、10歳)位の子どもたちから積極的に導入すべきでしょう。状況判断の練習として切り出すのではなく、スキル練習の中に状況判断の要素を取り入れながら練習をさせるのが最も効果と効率が高いです。自分は海外のバスケに触れる機会が多いですが、日本の子どもたちを見ていると、この状況判断力に大きな改善点(つまりは伸びしろ)があると考えています。例えばスペインではカテゴリーに関係なく状況判断を促すドリルを練習に組み込んでいます。」
――指導のねらい、目的をお聞かせください。 「クリニックの成果は3つです。1つはバスケットをとにかく楽しんでもらうこと。2つ目に周りをよく見てスペースを発見できること。3つ目はそのスペースにアタックすることです。子どもたちはパスを受けるとすぐにドリブルする習性があるので、その瞬間本当にすぐドリブルをつくのが一番良い選択肢なのかを考えられるようになって欲しいです。パスを受けた瞬間にドリブルをついて自分のディフェンスを抜き去るのがベターな時もあれば、味方がカッティングをしている最中でドリブルのスペースが狭く、その選手がスペースを空けてくれるまではボールを保持したまま待ち、空いたスペースにアタックするのがベターな時もあります。またアタックする際には右にスペースがあるのか、それとも左が空いているのか?そういった状況を判断できるようになるのが今回のクリニックの目的です。」
――クリニック担当しての感想を聞かせてください。
「先ほど、若年層から状況判断の練習をさせたほうが良いといいましたが、10歳の子が13歳の中学生と同じ状況判断ができるわけではありません。なので、その子たちにとって適切なレベルの状況判断を促すことが大切になるのですが、今回のクリニックでは参加してくれた子どもたちにとってちょうど良い難易度の課題を与えられたと感じています。その結果、自然とクリニックを楽しんでくれたのではないでしょうか。」
――ジュニアバスケットボールサミットについてはどういった感想を持ってますか。 「我々エルトラックとしても今回のように各方面からコーチをお招きし一緒にクリニックをするということは初めてのチャレンジだったので、とても良い刺激を受けました。エルトラックの代表としてクリニックを担当させてもらえたのも非常に光栄でしたし、個人的にもダニエル氏、トーステン氏のクリニックで通訳をさせてもらい、一番近くで彼らの指導を学べたことがとても有難かったです。」
――最後に指導理念を教えてください。 「指導する子どもたちに対しては
1.絶対に嘘をつかない
2.何かあれば必ず選手本人に直接伝える
3.選手の成長に決して妥協しない
です。」
「また指導者としては
1.謙虚さ
2.今この瞬間にベストを尽くす
3.細かいことまで気を配る
を目標に日々努力しています。」
今回のクリニックを見学し、まず子どもたちが本当に楽しそうに練習に取り組んでいる姿が印象的でした。クリニックの練習内容について水野指導員に聞いたところ、様々な工夫がなされている事を知り、改めて驚かされました。
「クリニックの最初に体幹を刺激するゲームをいれて体幹が安定した状態で続く身体操作、各スキル練習を行うと習得が速くなります。またコーディネーション系の動作と同時に何か物事を考えさせる負荷を与える運動(バスケネティックと自分では呼んでいます)を練習の導入で行うことで脳が活性化され、集中力も高まり、その状態でトレーニングをすることでよ学習能力の向上が期待できます。」
「また通常子どもたちが混乱しやすいスペーシングもミニゲームを使って遊びながら取り組ませると自然と子どもたちがボールの動きに対して適切なスペーシングがとれるようになっていきます。」
確かにクリニックの最後のゲームでは子どもたちがお互いに適切なスペースをとれるようになっており、その空いたスペースにアタックする選手たちを見ていてとても勉強になった。
練習内容 1)Eyes&Ears 子どもたちの興味を惹きつけるアイスブレイキング
2)回転トリプルスレット(体幹刺激)
3)バスケネティック ▷ポイント コーディネーションのカップリング要素を含んだ動きをさせながら、しりとりをさせたり、連想ゲームをさせたりする。するとスムーズに出来ていた動きが突如止まってしまう。運動を制御する脳と思考を司る脳を同時に刺激すると一時的にオーバーワークの状態に陥り、それを解決しようとして脳の処理能力が高まっていくと考えられている。
4)田んぼドリル ▷ポイント 4つに仕切られたグリッドを使い、スペーシングの感覚を子どもたちにつかませる。脳がフレッシュな練習の初めに行うと効果が高い。
5)ピボットとボール移動 ① Yピボット ② Yピボット&シュートバトル ③ ディフェンスの対応の逆をつく ▷ポイント 意図のないドリブルを減らすためにもピボットやボール移動を正確に行える必要がある。それによりボールマンディフェンスのプレッシャーにも慌てず対処でき、状況を観るための時間を創り出すことができる。
またディフェンス付きの練習では4箇所同時に行われていたが、その際、ペイント内に他のオフェンスが既に2人侵入している場合には3人目のオフェンスはペイント内ではシュートが打てない(ペイント内でシュートを決めても無効)というルールが設けられて、子どもたちが自然と混んでいる場所、空いている場所を見極めてシュートに持ち込んでいた。
6)1on1+1(スネークドライブ)
▷ポイント ヘルプディフェンスの出てくる方向によって、ドライブの進路を変える練習。ヘルプディフェンスが守りづらい方へとドリブルしていきレイアップショットを狙う。
7)3人組パスドリル(上下の判断) ▷ポイント 子どもたちに伝えていたのは「ディフェンスの手しかボールをカットしてこないよね?足でカットしたら反則だし、頭でカットする子いないよね?だからディフェンスの手だけかわせばパスミスもなくなるよ。」確かにその通りである。その為の具体的なスキルを紹介していた。
8)ドリブルスペーシング ▷ポイント ペアで一人がドリブルをしている。パートナーはボールに対して適切な距離をとり続ける。ボールが自分から遠ざかれば距離を埋め、自分に近づいてくれば適切な距離を保つためにボールから離れる。
9)パス&カットの状況判断練習(1on0~1on1) ▷ポイント 味方のカッティングに対して、本当に安全にパスができるかを判断する練習。味方がカッティングすると判断なく衝動的にパスを出してしまう子が多いので、パスができるか否かを判断し、出せればパスをし、無理であればそのままスペースを空けてもらって自らドライブインを狙う。先ほどのドリブルスペーシングから発展した練習。
10)4on4(スペーシング) ▷ポイント ここでクリニックの最初に行った「田んぼドリル」が再び登場。田んぼドリルのルールを思い出し、プレイすれば自然と味方同士が適切な距離感になりスペーシングが良くなる。その中で右か左かアタックしやすい場所を見定める。また子どもたちにわかりやすいようにお互いの距離感については“3mルール”を設けて、ボールを持っていないオフェンスはボールマンに対し3m以内に近づかないよう促していた。(3mルールを破るとOFとDF交代)